谷崎潤一郎 新々訳 源氏物語 書き起こし

谷崎潤一郎 新々訳 源氏物語の書き起こし

例言

一、この書は独立した一箇の作品として味わってもらうのが本旨であって、なるべく現代人が普通の現代作品に対するように、一字一句の詮索に囚われずに、安易な気持ちで読んでもらいたいのである。それゆえ、本来ならば頭注なども施したくはないのだけれども…

新々訳源氏物語序

今から三十年前、昭和十年の九月に、始めて源氏物語の現代語訳という仕事に取り組み出してから、十六年の七月に二十六巻本の旧訳を訳了し、二十九年の十二月に十二巻本の新訳を訳了したので、今度の新々訳は三回目の翻訳である。というと私は、いかにも源氏…